2024/02/14 13:21
現在イタリアでのアフリカ豚熱発生を受け、日本はイタリア産豚肉製品の輸入を停止しています。そのため当店も現在プロシュートをはじめすべてのイタリア産サルーミが欠品となっております。代品としてアメリカ産イタリアメーカー製造のプロシュートを販売いたしております。
今日は我々の愛してやまないイタリア・ パルマ産プロシュートの美味しさの秘密をもっと多くの方に知ってもらうべく、その歴史から生ハム完成までの長い道のりについてご紹介してみたいと思います!
生ハムの歴史
まず、そもそも生ハムって何ってところから。
一言に生ハムといってもその種類は様々。大雑把に分けるとドイツ系のハムに多い、燻製はするが過熱をしない『ラックスハム』と、塩漬け、乾燥のみで作られるものとに分けられます。
イタリアのパルマ産生ハムは後者のまったく過熱をしないタイプの生ハム。塩漬けと乾燥熟成のみで作られる生ハムはその他プロシュット・ディ・パルマと共に世界3大生ハムに数えられるスペインのハモン・セラーノ、中国の金華火腿や、それ以外にもフランスのジャンボン・ド・バイヨンヌ等があります。
生ハムの歴史は紀元前にまでさかのぼります。狩猟によって食物を得ていた生活から、農耕文化に変化していった紀元前7000年ごろにはすでに豚は家畜として飼われており、その肉をできるだけ長い間食べられるように塩漬けにしたのが生ハムの始まり。
紀元前3500年ごろには現在のイラクの南半分の地域にあったバビロニア王国やエジプト大国、中国には紀元前4800年ごろには保存食としての生ハムが存在していたと言われています。
イタリアでも古代ローマ帝国時代には生ハムが存在しており、紀元前100年にはパルマの町周辺で作られる風で熟成されたハムのすばらしい香りについて、「豚の後足に少量の脂をぬって乾燥すると全く腐敗することなく熟成される。それは美味なる肉となり、その後しばらく食べ続けることができ、芳しい香りも衰えない」とローマ時代の政治家として歴史に名を遺す大カトーが書物に記しています。
プロシュットの語源が「とても乾いた」を意味する『prae exsuctus』というラテン語が由来だと言われていることも、そのルーツの古さを表していると言えます。
プロシュート・ディ・パルマの生産地
パルマハムはイタリアの法律で定められたパルマ県の限られた地域のみで生産されます。パルマハム協会に認定された生産者の工場は、エミリア街道から5km以上南に離れ、海抜900m以下であり、かつエンザ川とスティロネ川に挟まれた場所に位置しなければなりません。
その中でも真のパルマ地区と言われるのがランギラーノという町。町には15世紀に建設されたトレッキアーノ城というイタリアでも最も保存業況が良い城がある美しい場所。パルマの中心市街地から約20キロの場所に位置し、200近いパルマハムの生産工場が集中しており、聖地とされています。
ランギラーノを中心としたこの非常に限定された地域独特の気候、環境がパルマ産生ハムの類まれなるおいしさを醸し出すのです。
しかし、たとえ指定された地域内で生産された生ハムでも、パルマハム協会が定めた厳しい条件に満たない生ハムには正式な認定マークであるパルマの王冠は与えられず、プロシュット・ディ・パルマの名を名乗ることができないのはもちろん、原産地呼称制度であるD.O.Pも与えられません。
実は2017年には日本の農林水産省が地域の農林水産物や食品をブランドとして保護する地理的表示保護制度(GI)に海外の産品として初めてイタリア産「プロシュット・ディ・パルマ(パルマハム)」を登録しました。GIは特定の産地で、こだわった製法や原料でつくられた農林水産物や食品が対象。パルマハムが登録されたことによって国が『パルマハム風』等のにせ物の流通を取り締まることができるようになりました。本物のパルマハムをお届けする私たち専門店にとっても非常にうれしいニュースです。
極上の生ハムになる豚達
極上のパルマハムづくりは豚を育てるところから始まっています。パルマ産生ハムの原料となる豚はイタリア北部と中央部の10個の州の認定養豚所で生まれ育ったラージホワイト種、ランドレース種、またはデュロック種に限られています。
これらの豚の餌には、特別に規定されたブレンド穀物、シリアル等の飼料とイタリアチーズの王様と呼ばれる”パルミジャーノ・レッジャーノチーズ”の製造過程でできる乳清を与え、豚が最高の健康状態を保ちながら穏やかに体重が増えるようにしています。
法律の規定に従い9ヶ月の歳月を経て150kg以上の体重に成長した豚のみがパルマ産生ハムの原料として出荷されます。これは通常他のヨーロッパ諸国で、生後6ヶ月で屠畜される豚を原料とする、安価な「一般の」プロシュットとの大きな違いの一つなのです。
通常より長い時間と手間をかけ育てられた豚達でもパルマハムになれるのは全部ではありません。それぞれのメーカーは自社の原料にする豚を選ぶため、専門の選別担当者を屠畜場に派遣しています。脂身が厚く硬く締まった上質の豚のみがパルマハムに生まれ変わることを許されるのです。
最高の生ハムが生まれるまで
プロシュート・ディ・パルマの完成までには非常に多くの工程があり骨の折れる仕事です。パルマハム生産者たちが目指すのはただ一つ 、『最小限の塩で豚肉を熟成』させ、柔らかく、そして甘く仕上げること。
たくさんの製造工程にはその工程専門の職人たちが多くかかわっています。
まず認定屠畜場から運び込まれた約15キロほどの生の豚のもも肉の余分な皮や脂肪を取り除き、丸く形を整えられます。トリミングされた豚肉は”マエストロ・サラトーレ”と呼ばれる熟練した塩漬け職人によって、血が抜けるよにマッサージをされながら塩振り(ソルティング)が施されます。
マエストロ・サラトーレは湿った塩と乾いた塩を使い分け、一つづつ手作業で塩を刷り込んでいきます。一部が機械化されているメーカーでも、最終的な塩の塩梅は熟練の職人の勘によって決められています。このとき使われる塩ももちろんイタリア産の海塩が使われます。
化学製品は一切使われない無添加のパルマ産プロシュートは、製造工程の中で海塩のみが唯一の保存料。
これも通常亜硝酸塩や硝酸塩等の科学的な保存料・発色剤を使用する一般のプロシュートとの大きな違いです。
一回目の塩振りから約一週間、二回目の塩振りから大きさによって15日~18日間、湿度が管理された低温の冷蔵室でじっくりと塩を浸透させながら寝かされた豚もも肉は、湿度が75%に管理された別の冷蔵室に70日前後間置かれた後、ぬるま湯で洗浄され余分な塩や汚れが落とされたのち今度は乾燥室へと移され1本ずつ吊るされます。外気温と湿度がハムにとって好ましい時には窓が開けられ、一定で穏やかな乾燥を促します。
熟練した職人は、この期間こそパルマハムの独特の風味がかもし出されるのに非常に重要な時期と信じています。
製造開始から前乾燥が終わったころ、皮の無い肉の部分に米粉を混ぜたラードを塗るスーニャトゥーラ(Sugnatura)という作業が行われます。これは生ハムからの過剰な水分の蒸発を防ぎながら、生ハムの保水率を一定にするための大事な工程です。手作業によって一本一本ラードが塗りこまれた生ハムは空気の流れと光が少ない貯蔵庫に移され、熟成が完了するまで時を重ねます。イタリアの法律により、生ハムの熟成期間は一回目のソルティングから最低でも1年間と定められており、最長では3年間の熟成にまで及びます。
既定の12カ月を過ぎたらパルマハム品質協会(IPQ)の検査員がハムに貼られたシールで熟成期間を調べ、規定通りの作業工程に準拠していることを確認します。そして最後にハムひとつひとつを多孔質の馬の骨でできた針を刺しながら香りを嗅ぐスピッラトゥーラ(Spillatura)という検査を行い、香りから熟成具合と品質を確認しパルマハムとして出荷できるかの最終決定がされます。
規定の熟成期間を経て品質検査をパスしたパルマハムは晴れて公的な認定印(パルマの公爵の王冠の烙印)を受け、世界中へと出荷されていくのです。
これほど多くの工程と専門職人がかかわって生まれるパルマ産プロシュートも原料はたったの4つ。
最高品質の豚のもも肉と塩、そしてパルマ地方の独特の気候に、時間。
着色料や亜硝酸塩などの化学的な添加物は一切使用されない非常にナチュラルな食品でもあるのです。
生ハムは太る!?おいしいだけじゃない、パルマハムの栄養価
亜硝酸塩や硝酸塩といった化学的な着色料や保存料を一切使用せず、大切に育てられた豚のもも肉と塩、パルマ地方の空気と時間のみを原材料に生み出されるプロシュット・ディ・パルマ。
イタリア産の生ハム”プロシュット・ディ・パルマ”は世界中のグルメを魅了する素晴らしい味わいはもちろん、100%ナチュラルで栄養価に大変優れた食材でもあります。
『美食』それはただおいしいもの、高級なものを好きなだけ食するということではなく、体にとってバランスのとれたヘルシーなものを適量おいしく摂取することだと提唱されています。
パルマ産生ハムは良質なたんぱく質を豊富に含み、熟成期間に応じて遊離アミノ酸が多量に含まれているため、とても消化されやすい食材です。
生ハムは脂が多く、太るんじゃないか?と多くの人が気にしている脂質に関しても、不飽和脂肪酸が64.9%と飽和脂肪酸35.1%に対して非常に高く、その中でも健康注目度の高いオレイン酸(45.8%)の割合が非常に高いのが特徴。つまりパルマハムの脂肪の中には体に悪影響を及ぼす飽和脂肪酸とコレステロールがあまり含まれていません。
ビタミン類も非常に豊富で特にビタミンB1、B6 、B12、ナイアシンが多く含まれており、成人1日の推奨摂取量の大半をカバーすることができます。リン、亜鉛、鉄分、セレニウムといった無機塩類も相当量含まれています。
ただおいしいだけでなく体にもいいのはやはり自然と伝統が育んだパルマ産プロシュートのナチュラルな製法が起因しているんですね!